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新潟地方裁判所 昭和60年(わ)206号 判決

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和六〇年五月一四日午後九時三〇分すぎころ、新潟市松崎一二〇八番地四河合雄作方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する粉末約〇・〇三グラムを溶解した水溶液約〇・二ミリリットルを自己の左腕に注射し、もって覚せい剤を使用したものである。

(証拠の標目)《省略》

(補足説明)

一  本件公訴事実の要旨は

「被告人は、法定の除外事由がないのに

第一  昭和六〇年五月一四日午後九時三〇分ころ、前掲河合雄作方において、同人から覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する粉末約〇・〇三グラムを代金五〇〇〇円で譲り受け

第二  前記日時・場所において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する粉末約〇・〇三グラムを溶解した水溶液約〇・二ミリリットルを自己の左腕に注射し、もって覚せい剤を使用し

たものである。」

というものである。

そして、検察官は、右公訴事実第一と第二の罪数関係について「譲り受けと使用はそれぞれ別個独立の行為であって、一般に、覚せい剤の譲り受けが必ず使用を伴うものではなく、また使用が必ず譲り受けを伴うものではないことから考えると、両者の関係は併合罪とするのが相当である。」とする。

二  よって、検討するに、本件の覚せい剤の譲り受け・使用状況について、前掲証拠によれば、左記のとおり認定できる。

「被告人は、河合雄作から、『覚せい剤があるから、現金を持って来ないか。』旨の電話連絡を受け、注射器等を持参して、昭和六〇年五月一四日午後九時三〇分ころ、右河合方へ赴いたところ、同人方茶の間のテーブルの上に約〇・〇三グラムの覚せい剤の入ったスプーン一個が置いてあり、被告人が右河合に対し、『現金の都合がつかなかった。』旨話したところ、同人が、『やればいいさ。代金五〇〇〇円は今度来るときに持って来てくれ。』旨答えたことから、被告人は、直ちに、その場で、所携の注射器を使用して、そのスプーンの中の覚せい剤に水をかけて約〇・二ミリリットルの水溶液とし、これを全部自己の左腕の血管に注射して使用した。」

三  右認定事実によれば、本件における被告人の本来の目的は、覚せい剤を自ら注射使用することにあり、現に、被告人は覚せい剤の注射使用をしているのであって、確かに、検察官の指摘するとおり、その覚せい剤は河合雄作の所有するものであり、被告人は、これを譲り受けているのではあるが、自己使用の目的で譲り受けた覚せい剤を直ちにその場で全量自己使用している本件のような場合においては、その覚せい剤の譲り受けは、覚せい剤自己使用の罪に包括、吸収され、いわゆる共罰的(不可罰的)事前行為として、独立の罪を構成しないものと解するのを相当と思料する。

従って、判示のとおり、当裁判所は、本件につき、覚せい剤の自己使用の罪の成立のみを認定した次第であるが、なお、覚せい罪の譲り受けについて、その事実及び可罰性を否定したわけではないので、主文において、無罪の言渡しをしない。

(累犯前科)

被告人は、昭和五二年一月一七日新潟地方裁判所において銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反罪により懲役一年(四年間執行猶予、同五四年三月五日右猶予取消)に処せられ、同五五年六月一六日右刑の執行を受け終わったものであって、右の事実は検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

一  罰条

覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条

一  再犯加重

刑法五六条一項、五七条

一  未決勾留日数の算入

刑法二一条

一  訴訟費用の不負担

刑事訴訟法一八一条一項但書

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥林潔)

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